洋上風力発電におけるメリット・デメリットと日本の導入状況
2050年カーボンニュートラルの実現に向け、再生可能エネルギーの切り札として洋上風力発電に期待が寄せられています。島国である日本にとって、広大な排他的経済水域(EEZ)を活用できる洋上風力発電は、インフラ投資やビジネスの巨大なフロンティアとなる新市場です。
一方で、資材高騰や円安によるコスト高、公募案件の見直しや採算悪化に伴う戦略的な事業撤退など、実際の投資で直面するマクロ経済上のリアルなリスクも浮き彫りになりました。
そこでこの記事では、着床式と浮体式の技術構造の違いや最新の導入データから、激変する制度改革への対応策までまとめて解説します。大量導入の未来を見据え、今どのようなインフラ投資戦略をとるべきかも触れていますので、最後までご一読ください。
目次
1. 洋上風力発電とは何か?陸上との違いと再生可能エネルギーの価値

はじめに、洋上風力発電の基本的な仕組みや陸上との違いについて紹介します。
1-1. 海洋国にマッチする洋上風力発電の特徴と仕組み
洋上風力発電は、海上に設置された巨大な風車によって、風の運動エネルギーを電気エネルギーへと変換するシステムです。
構造としては、主に以下の4つのパーツで構成されています。
- ブレード:羽根
- ハブ:締結部
- ナセル:発電機を格納する最上部の巨大な箱
- タワー:鋼製モノポール支柱
上記のパーツを海底に基礎で固定するか、または海面に浮かべる浮体式の支持構造で支えます。
排他的経済水域(EEZ)は約405万km²、領海は約43万km²を擁する世界第6位の海洋国・日本にとって、洋上風力が生み出す純国産エネルギーは、2050年カーボンニュートラル実現に向けた主力電源の切り札であり、現在官民一体で開発が進められています。
1-2. 遮蔽物がなく安定した風力が得られる洋上と陸上との違い
陸上は、山岳地帯の起伏や建物により、地表に凹凸があります。こうした「粗度長」の影響で、風が遮られやすく乱気流が発生しやすい環境です。これに対し、洋上は遮蔽物が一切なく、年平均風速6.5〜7.0m/s以上という非常に強く安定した一方向の風が吹き続けます。
風力エネルギーは風速の3乗に比例するため、平均風速が20%高くなるだけで発電量は約1.7倍以上に跳ね上がります。そのため、陸上の設備利用率は約20%前後なのに対して、洋上は30%〜40%以上という圧倒的な高効率稼働を実現可能です。また、陸上は搬入限界や低周波音問題によって、適地選定が難しくなっていますが、洋上では15MW級の超大型風車を数十基並べたギガワット規模の大規模ウィンドファーム化が可能であり、土地制約に縛られない大きな優位性が特色です。
1-3. 発電プロセスでCO2を排出しない環境に優しいクリーンな電源
発電時にCO2を排出しない洋上風力発電は、温室効果ガス排出量が実質ゼロの極めてクリーンな純国産エネルギーです。パリ協定や、2030年度温室効果ガス46%削減、2050年実質ゼロなど、国のエネルギーミックス目標を達成するうえで、化石燃料依存から脱却するための主軸電源として工学・環境の両面から極めて重要な価値を持っています。島国である日本のエネルギー自給率を構造から引き上げる電源として、洋上風力発電の普及が強く求められているのです。
参照URL:
・JOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)「洋上風力発電(2)」
・三井物産株式会社「風力発電の仕組みをメリット・デメリットと合わせてわかりやすく解説」
・SMART ENERGY WEEK「風力発電の仕組みは?種類や特徴など基本情報を徹底解説!」
・海上保安庁海洋情報部「日本の領海等概念図」
・一般財団法人 日本エネルギー経済研究所「EEZにおける洋上風力発電の開発について」
・公益財団法人 自然エネルギー財団「2030年におけるエネルギー目標量のあり方:風力発電」
・(一財)電力中央研究所「洋上風力発電の動向と課題」
・NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)「風力発電等導入支援事業/ 洋上ウィンドファーム開発支援事業/ 我が国における洋上ウィンドファーム等の事業性に関する調査 のうち着床式洋上ウィンドファーム等の事業性評価 に関する検討(中間報告)」
・外務省「日本の排出削減目標」
2. 技術構造を比較!着床式と浮体式のメリット・デメリット

ここからは、洋上風力発電の主要な設置方式である着床式と浮体式について、技術構造やメリット・デメリットを見ていきましょう。
2-1. 着床式:海底に基礎構造物を直接固定する工法と水深限界
着床式は水深50m〜60m未満の比較的浅い海域に採用され、海底地盤に杭を打ち込むなどして風車を物理的に直接固定する工法です。遠浅な北海エリアを持つヨーロッパで技術が発達し、洋上風力全体の累積導入量の大部分を占めています。
基礎形式には使い分けの基準があります。水深30m以浅のモノパイル式はいちばんシンプルで低コストな太い鋼管を1本打ち込みます。また、50m程度までの深い水深をカバーするジャケット式は複雑なトラス鋼構造が特徴です。このほか、コンクリート等の自重で海底に据え置く重力式といった仕組みもあり、地盤や水深に応じて使い分けられています。
2-2. 浮体式:深海エリアをカバーし日本の海域に適した構造
浮体式は海面に浮かべた巨大な浮体構造物の上に風車を載せ、海底のアンカーから鎖や係留索と呼ばれる特殊ワイヤーできつく繋ぎ止めて姿勢を安定させる次世代技術です。水深50mから200m以上の大水深エリアまで広く対応できます。
遠浅の海が非常に少なく、岸からわずかに離れるだけで海底が急激に深くなる急峻な海底地形を持った日本において、着床式から浮体式へのシフトは国家的・インフラ的にも優先課題と言えます。国内における洋上風力導入のポテンシャルの大半は、大水深海域に広がっているためです。浮体式には、円柱状の重い下部構造を深く沈めるスパー型や、複数の浮体タンクを連結して安定させるセミサブ型、垂直の張力索で揺れを極小化するTLP型があり、各形式によってさまざまな構造特性を持ちます。
2-3. 各方式のコスト・施工難易度・環境影響から見るメリット・デメリット
着床式は商業実績が豊富で初期コストや事業リスクを低く抑えやすいメリットがあります。一方で、海底を直接掘削・杭打ちするため、打撃音がクジラ等の海洋哺乳類へ一時的な影響を与える点や、水深制限により設置に適した場所が限られている点がデメリットです。
一方、浮体式は設置海域の水深制限が実質的になく、広大なEEZで導入できるメリットがあります。反面、構造が極めて複雑で製造・係留システムに莫大な初期コストがかかる点、台風や巨大波浪時の大きな傾きや激しい動揺に対し、ピッチ制御等の能動的制御に関する工学的検証が現在も進行中である点が課題です。
さらに、施工プロセスにも決定的な差があります。着床式は風や波といった海の気象が穏やかな短い期間に施工を計画し、特殊な大型クレーンを備えたSEP船(自己昇降式作業船)を洋上に派遣して組み立てるため、工期と船賃のリスクが高くなります。これに対し、浮体式は港湾や陸上のドック付近で風車本体まで完全に組み立てを完了させた後、通常のタグボートで設置海域まで牽引・曳航して係留索に繋ぐだけで済むため、迅速かつ低コストで導入可能です。海上施工の効率化やコスト削減のポテンシャルを考えると、合理的で将来性が高いと言えます。
参照URL:
・SMART ENERGY WEEK「浮体式洋上風力発電とは?種類別のメリット・課題や日本と各国の導入事例も紹介」
・(一財)電力中央研究所「洋上風力発電の動向と課題」
・国土交通省「秋田港内及び能代港内における洋上風力発電プロジェクト」
・国土交通省「2050年カーボンニュートラル実現のための基地港湾 のあり方検討会 ~基地港湾の配置及び規模~」
3. 日本における洋上風力発電の歩みと銚子沖などの代表事例

ここからは、日本における洋上風力発電の歴史や代表的な事例について紹介します。
3-1. 国内実証実験から始まった歴史と銚子沖での実績データ
日本における本格的なパイオニアとなったプロジェクトは、NEDOや東京電力等による「銚子沖洋上風力実証事業」です。定格2.4MWの着床式からスタートしました。
日本は台風が多く、波も高く、潮風による金属の腐食も早いなど、世界的に見ても海が非常に厳しい環境にあります。そのため、日本で風力発電を行うには、こうした過酷な条件を乗り越えるための頑丈な設計が欠かせません。
過去の試験プロジェクトで得られたデータは、日本独自の環境下で「どうすれば風車を守り、安定して発電できるか」という技術を磨くための、貴重な資産となっています。また、長崎県五島市沖における日本初の商用浮体式洋上風力発電所「五島洋上ウィンドファーム」などは、現在の商用化推進を支える大きな一歩となりました。
3-2. 全国へ広がる促進区域の指定状況と大型商業運転プロジェクト
2019年施行の「再エネ海域利用法」により、海域の利用ルールが明確化され、国は日本全国で促進区域を指定しました。日本初の大規模商用運転として、現在、秋田県の能代港(20基:84.0MW)や秋田港(13基:54.6MW)で実際に大規模な風車を使ったプロジェクトが稼働を開始しています。
2025年12月末時点の日本国内の風力累積導入量は6,434.2MW(2,866基)に達しました。うち洋上風力発電の実績は、着床式248MW、浮体式5MWで、合計253.4MWを数えます。
このように、日本の洋上風力発電は試運転や研究の段階を終え、いよいよ本格的な発電ビジネスの時代へ突入したと言えるでしょう。
3-3. マクロ経済の激変:第1ラウンド落札コンソーシアム撤退の意味
一方で、洋上風力発電のビジネスはこれまで順風満帆だったわけではありません。2025年には、「三菱ショック」と呼ばれる、大規模な撤退表明が業界に大きな衝撃を与えました。
2021年末、能代・三種・男鹿、由利本荘、銚子市沖の3海域における第1ラウンド公募を11.99〜16.49円/kWhという破格の低単価で総取りした三菱商事を中心とする企業連合でしたが、2025年8月に全面撤退を正式表明しています。
三菱ショックの大きな要因は、マクロ経済の急激な変化です。
- 世界的な物価・資材高騰で建設費全体が当初想定の2倍以上に拡大した
- 急激な円安の進行で海外メーカー製風車部材の調達コストが膨張し、タービン本体価格が倍増した
- 金利上昇によるファイナンス組成の悪化が重なった
固定売電価格(FIT)の枠組みのなか、当初の計画ではこうした想定外のインフレリスクをカバーしきれず、200億円に及ぶ巨額の保証金を支払って撤退するという苦渋の決断に至っています。
2025年のニュースを受けて、国は価格の安さだけを重視した評価配点を見直し、実現可能性やスピードをより重視する評価基準へと移行しています。具体的には、第2・第3ラウンド以降の評価基準変更や、国が事前に環境アセスや地盤調査を進める「日本版セントラル方式の法制化(2025年6月)」など、法制度の改革がおこなわれました。
参照URL:
・銚子市「銚子沖洋上風力発電 実証研究について」
・日経BP:メガソーラービジネス plus「東電HD、銚子沖で洋上風力を計画、環境アセスに着手、最大370MW」
・経済産業省「長崎県五島市沖に係る海洋再生可能エネルギー発電設備整備促進区域において、五島フローティングウィンドファーム合同会社の浮体式洋上風力発電設備が運転を開始しました」
・日本環境アセスメント協会「再エネ海域利用法」
・一般社団法人日本風力発電協会「2025年12月末時点日本の風力発電の累積導入量」
・国土交通省「秋田港内及び能代港内における洋上風力発電プロジェクト」
・国土交通省「2050年カーボンニュートラル実現のための基地港湾 のあり方検討会 ~基地港湾の配置及び規模~」
・日本経済新聞「日本の洋上風力に「三菱商事ショック」 初の大型開発案件撤退の波紋」
・自然エネルギー財団「三菱商事連合の洋上風力事業撤退は制度改革の必要性を示している」
・国土交通省「洋上風力発電に係る第1ラウンド公募事業の 撤退要因等の分析」
・一般財団法人新エネルギー財団「第13回 解説記事:テーマ「国内外の洋上風力の動向」」
・一般財団法人新エネルギー財団「第14回 解説記事:テーマ「再エネ海域利用法に基づく入札制度の見直し」
・経済産業省「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案」が閣議決定されました」
・経済産業省「再エネ海域利用法に基づく促進区域の指定に向けた準備区域の整理及びセントラル方式による調査対象区域について」
4. 目標はGW(ギガワット)!国の導入目標と産業の壁への挑戦

ここからは、日本の洋上風力発電におけるGW(ギガワット)規模の国家目標と、大量導入に向けてクリアすべき産業の壁について見ていきましょう。
4-1. 政府が掲げる2030年・2040年に向けたGW規模の国家投資目標
政府は「第7次エネルギー基本計画」および「洋上風力産業ビジョン」において、高い導入目標を掲げています。具体的には、2030年までに10GW(1,000万kW)、2040年までに浮体式を含めて30GW〜45GW(3,000万〜4,500万kW)までのプロジェクト形成を目指す方針です。
さらに2025年3月には「再エネ海域利用法」の改正法案が閣議決定され、利用海域が従来の沿岸22kmである領海から、排他的経済水域(EEZ)にまで拡大されました。その結果、水深が深く広大なEEZ海域へ浮体式風車を大量導入するための審査体制が、本格稼働しています。
4-2. 国内風車メーカー不在とサプライチェーンのボトルネック
市場拡大のネックとなる最大の課題が、サプライチェーンの限界です。三菱重工などの国内メーカーが全面撤退したため、MW級の大型風車はヨーロッパや中国などのグローバルメーカーに依存している状態です。そのため、為替やインフレリスクに対して非常に脆弱な産業になっていると言えます。
インフラの受け入れキャパシティも不足しています。大型風車のナセルやブレードの陸上保管や、地際でのプレアセンブリ(事前組立)を行う基地港湾(能代港、秋田港、鹿島港、北九州港、酒田港、新潟港など)は、ふ頭用地が決定的に不足しています。また、世界的に不足するSEP船など超大型施工船の確保もボトルネックが続いている要因のひとつです。
4-3. 地域の漁業権やステークホルダーとの調整・合意形成
海域の利用を巡っては、地元の受け入れに向けたきめ細かな調整が必要です。古くから沿岸や沖合を利用してきた地元の漁業協同組合や、海運業者との綿密な利害調整が求められます。対象地域によっては、法定協議会における何年にも及ぶ丁寧な合意形成や、操業影響・環境モニタリング調査が必要なケースも少なくありません。
「海洋再生可能エネルギー発電設備整備促進区域指定ガイドライン」において、地域や漁業との共生に欠かせない利益還元の仕組みもルール化されました。「合計出力kW×単価250円×占用期間30年」の算定を参考とした、地域共生基金への出捐です。発電事業を運営する側にとって、拠出金は収支計画に大きく関わる重要なコストの一部となっています。
参照URL:
・資源エネルギー庁「エネルギー基本計画について」
・国土交通省「洋上風力産業ビジョン(第2次)」
・資源エネルギー庁「2025年、日本の洋上風力発電~今どうなってる?これからどうなる?~」
・日本経済新聞「浮体式洋上風力、40年に15ギガワット目標 部品の国内調達65%以上に」
・経済産業省「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案」が閣議決定されました」
・エネハブ「4月1日に再エネ海域利用法改正法が施行、開発区域をEEZにも拡大、環境省による事前調査も実施」
・日本経済新聞「洋上風力の撤退、JERA幹部「課題は国産風車メーカー不在だけでない」」
・講談社:週刊現代「三菱商事はなぜ「洋上風力発電」から全面撤退したのか?「バブル崩壊」と再エネ業界が震撼した「決断の全内幕」」
・経済産業省「令和6年度 九州地域における洋上風力関連産業分野のサプライチェーン 拡大を通じた再エネ基盤のレジリエンス強化・エネルギーの 安定供給に向けた調査事業」
・経済産業省「昨今の基地港湾を取り巻く課題への対応策と今後の課題」
・資源エネルギー庁「洋上風力発電建設の課題と拠点港湾のあり方について」
・経済産業省「洋上風力発電事業の産業基盤構築に向けた取組と発電コスト低減の道筋」
・国土交通省「海洋再生可能エネルギー発電設備整備促進区域指定ガイドライン」
5. まとめ:洋上風力発電の大量導入を見据えた最先端のインフラ投資戦略
洋上風力発電は、風速の3乗比例というエネルギーとして圧倒的なポテンシャルを持ち、発電時にCO2を排出しないクリーン性を備えるなど、日本のエネルギー自給率を引き上げる重要な切り札と言えます。一方で、インフレや円安、国内メーカー不在によって増大する初期投資費用や撤退リスクを正しく織り込み、着床式から大水深のEEZ海域をカバーする浮体式へのシフトや、厳格化された公募ルールに対し的確に対応することが重要です。
大量導入が進む未来、風況によって生じる出力の不安定さや、深刻な系統制約問題といった大きなリスクを乗り越え、JEPXの価格ボラティリティを利益に変える最先端のインフラこそ「系統用蓄電池事業」です。2026年の新ルールに則った土地確保や、AI自動市場入札に精通した専門知見のある事業パートナーに相談し、自社の条件に沿った具体的な事業シミュレーションをおこなってみてはいかがでしょうか。
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