長期脱炭素電源オークション・ガイドラインの要件と事業者収入


公開日:2026.09.29 更新日:2026.10.05
長期脱炭素電源オークション・ガイドラインの要件と事業者収入

脱炭素社会の実現に向け、新規脱炭素電源の開発・投資を後押しする長期脱炭素電源オークションのガイドラインへの関心が高まっています。原則20年間の固定費回収が保証されるため、事業開発や投資検討のうえで極めて重要な制度の指針です。

ただし、長期脱炭素電源オークションのガイドラインとは何か、制度の基本的な仕組みや対象電源、クリアすべき要件、応札価格の算定や事業者収入の構造まで正確に把握できている方は多くないのではないでしょうか。

そこでこの記事では、長期脱炭素電源オークションのガイドラインに基づき、基本から参加方法、参入メリット、今後の展望までわかりやすく紹介します。社内提案や事業計画のために役立つ情報をまとめていますので、最後までご一読ください。

1. 長期脱炭素電源オークションのガイドラインとは何か?目的と仕組みをわかりやすく解説

はじめに、長期脱炭素電源オークションガイドラインの概要、制度が創設された目的、20年間の固定費回収の仕組みについて紹介します。

1-1. 長期脱炭素電源オークション ガイドラインの概要と制度創設の背景

長期脱炭素電源オークションガイドラインとは、2050年カーボンニュートラル実現に向けて、初期投資(CapEx)が大きい脱炭素電源の新設や大規模改修を誘導する枠組みを示した指針です。

従来の卸電力市場(JEPX)中心の取引では、将来の市場価格変動にともなうマーチャントリスクとして収益の不確実性が大きく、長期にわたる資金回収が必要な電源開発への投資が進みにくい課題が存在していました。この投資阻害要因を解消し、脱炭素電源への長期投資を力強く促進するために制定されました。

1-2. 制度の基本的な仕組みと原則20年間の固定費回収(容量確保契約)

本制度の中核は、オークションで落札した事業者に対し、原則20年間にわたり容量確保契約金額として固定費相当分の支払いを保証するファイナンス構造です。

事業者は長期に安定した収入を得られるため、プロジェクトのダウンサイドリスクを大幅に低減できます。財源は一般送配電事業者や小売電気事業者が負担する容量拠出金から充当される仕組みです。長期の固定収入が保証されることで、メガバンクなどからノンリコースローンのようなプロジェクトファイナンスの調達が容易となり、融資適格性であるバンカビリティが大幅に向上します。

1-3. 単年度の容量市場(メインオークション)との関係性と違い

単年度の容量市場(メインオークション)と長期脱炭素電源オークションは、対象電源や契約期間において明確な違いがあります。

【単年度の容量市場(メインオークション)と長期脱炭素電源オークションとの違い】

項目容量市場(メインオークション)長期脱炭素電源オークション
対象電源既設電源を含む既存の供給力中心新設・大規模リプレース・脱炭素改修電源
契約期間単年度(1年間)原則20年間
主な目的4年後の過不足のない供給力確保巨額投資を伴う脱炭素電源の建設誘導
約定方式シングルプライス方式マルチプライス方式(Pay-as-Bid)

このように、既設電源の維持を図る容量市場に対し、将来の脱炭素インフラを新たに創出するための投資回収手段として長期脱炭素電源オークションが機能します。

参照URL: 経済産業省 資源エネルギー庁「長期脱炭素電源オークション 運用ガイドライン」 https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/summary/regulations/choukigl_20250827.pdf

電力広域的運営推進機関(OCCTO)「長期脱炭素電源オークションを知ろう!」 https://www.occto.or.jp/capacity-market/decarbonation_know/

2. 応札可能な対象電源とクリアすべき参加要件

ここでは、ガイドラインが定める対象電源の区分、事前審査で求められる技術的・事業的要件について紹介します。

2-1. ガイドラインが定める対象電源区分(再エネ・蓄電池・水素等)

ガイドラインでは、脱炭素化に直接貢献する多様な電源および蓄電アセットが対象電源として指定されています。

具体的には、新設・リプレースともに太陽光発電や陸上・洋上風力発電などの再生可能エネルギー、10MW以上等の出力制限や継続放電要件を満たす系統用大規模蓄電池(BESS)が指定対象です。また、水力発電の大規模改修、地熱発電、水素専焼・混焼、アンモニア混焼、CCS付き火力発電、原子力の安全対策投資なども対象となります。

2-2. 事前審査で確認される技術的・事業的要件

オークションに応札するためには、事業計画の実効性を証明する厳格な要件をクリアする必要があります。

土地権原要件として、事業用地の所有権取得や賃貸借合意の成立が必要です。系統接続要件では、一般送配電事業者から接続検討の回答を受領し、アクセス枠が確定していることが欠かせません。あわせて、環境影響評価としてアセスメント手続きの着手や、電源ごとに定められた蓄電池4年以内、再エネ・火力等7〜10年以内の供給力提供開始期限を守ることが義務付けられます。

2-3. 自社事業が対象になるか判定する事前確認チェックリスト

自社プロジェクトが要件を満たしているか確認する際は、以下の7項目をチェックしましょう。

①電気事業法上の発電事業者またはアグリゲーターとして登録予定か

②新設・リプレース等の運転開始前の脱炭素電源計画であるか

③募集要綱に定める最低応札容量(蓄電池10MW等)を満たしているか

④土地の権利確保(所有権/賃貸借)および系統接続検討回答を得ているか

⑤FIT・FIP制度など他の国の補助金・支援策との重複適用がないか

⑥指定された供給力提供開始期限までに確実に稼働できる工程か

⑦ガイドラインに沿った原価算定根拠資料が整備されているか

参照URL: 経済産業省「長期脱炭素電源オークションに関するよくあるご質問」 https://www.egc.meti.go.jp/info/business/decarbonization/faq.html

経済産業省「長期脱炭素電源オークションの監視について(応札年度2025年度)」 https://www.occto.or.jp/assets/market-board/market/oshirase/2025/files/202509_kanshitouiinkai_long.pdf

3. 応札価格の算定ロジックと事業者収入の計算方法

ここでは、ガイドラインに基づく応札価格の決め方、落札後の事業者収入の計算ロジックについて紹介します。

3-1. 応札価格(マルチプライス方式)の決め方と原価算定のポイント

長期脱炭素電源オークションでは、事業者が自ら提示した入札価格で約定するマルチプライス方式(Pay-as-Bid)が採用されています。

応札価格は、初期投資額であるCapExや運用維持費としてのOpEx、適正利潤を合算した固定費から、将来見込まれる市場収益等を控除する算出方法です。不当に高い価格設定を防ぐため、電力・ガス取引監視等委員会による厳格な事前監視として原価算定審査が行われます。

3-2. 事業者収入の仕組み

落札後の事業者収入は、以下のように、長期固定収入と市場運用による変動収入を組み合わせた独自の計算式で決定されます。

○実質収入=容量確保契約金額+市場取引収入−可変費−還付金額

JEPXや需給調整市場などの他市場で得た利益から可変費を差し引いた控除後利益のうち、90%はクローバック(収益還付)規律により国へ還付されます。残る10%の利益は事業者のインセンティブとして手元に残るため、積極的な市場運用を促す設計です。

3-3. 系統用蓄電池プロジェクトを例にした収益シミュレーションの考え方

10MW/40MWh規模の系統用蓄電池(BESS)を応札した場合の収益構造を見ていきましょう。

設備導入や系統接続にかかる巨額のCapExは、20年間にわたり支払われる安定した容量収入によって確実に回収可能です。これに加えて、卸電力市場での価格差益としてのアービトラージや需給調整市場の運用で得た超過利益の1割が上乗せされます。市場リスクを排除しながら投資回収期間を予測できるため、事業全体の内部収益率(IRR)を安定的に確保できる点が大きな魅力です。

参照URL: 経済産業省 資源エネルギー庁「長期脱炭素電源オークションガイドライン」 https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/summary/regulations/choukigl_20250827.pdf

電力広域的運営推進機関(OCCTO)「長期脱炭素電源オークションの制度詳細について(応札年度:2024年度)」 https://www.occto.or.jp/assets/market-board/market/files/20240920_youryou_syousaisetsumei_long.pdf

4. 事前準備から応札までの具体的な参加方法と手続きフロー

ここでは、電力広域的運営推進機関(OCCTO)への事前審査・申請手順、具体的な参加方法について紹介します。

4-1. 参加登録から事前審査・応札・落札・契約締結までのステップ(参加方法)

オークションへ参加するための手続きは、主に以下の5つのステップで進行します。

ステップ1(事業者登録・資格確認)

OCCTOシステムへのログインアカウント取得と事業者資格を登録します。

ステップ2(事前審査書類提出)

発電事業計画書、原価算定資料、土地および系統接続の証明書類を提出します。

ステップ3(応札)

システム上での募集容量および応札価格の入力・送信を完了させます。

ステップ4(落札決定・契約締結)

審査・約定結果の公表と容量確保契約の締結します。

ステップ5(建設・運転開始)

設備の施工・試運転を経て供給力提供を開始し容量収入を受給となります。

上記の5つのステップに定められた手続きの期限の厳守が重要です。

4-2. 事前審査・応札に必要な準備書類と実施スケジュールの目安

申請にあたっては、ガイドラインに準拠した証明書類をまとめて揃えましょう。

主な書類は、発電事業計画書、原価算定根拠書、地権者合意書、系統接続検討回答書などです。秋から冬にかけての公募開始・書類受付から、事前審査、春先の応札・落札決定に至るまで、約半年間のタイムラインで動きます。したがって、事前の書類作成と関係各所との調整を計画的に進めることが申請手続きの成功の鍵となります。

4-3. 手続き遅延や失格リスクを防ぐための準備チェックリスト

手続きの遅延や書類不備による不採択を防ぐため、事前に以下の8項目を点検しましょう。

①指定された原価算定フォーマットに沿ってCapEx/OpExが算出されているか

②系統接続検討の「承諾」回答を取得しているか

③土地賃貸借・買収契約に失効条項等の不備がないか

④運開遅延時のペナルティ条項を織り込んだ工期計画か

⑤OCCTOシステムの操作権限・アカウントを取得しているか

⑥インフレ・金利上昇を考慮した最安応札価格の試算が完了しているか

⑦2027年以降義務化されるJC-STAR等のサイバーセキュリティ要件を満たしているか

⑧9割クローバックを織り込んだ長期財務モデルが構築できているか

参照URL: 電力広域的運営推進機関(OCCTO)「長期脱炭素電源オークション 知ろう!」 https://www.occto.or.jp/capacity-market/decarbonation_know/

電力広域的運営推進機関(OCCTO)「長期脱炭素電源オークションの制度詳細について(応札年度:2024年度)」 https://www.occto.or.jp/assets/market-board/market/files/20240920_youryou_syousaisetsumei_long.pdf

5. 制度の今後の展望と事業者が得られる参入メリット

ここからは、制度の今後の展望や、事業者が享受できる多角的な参入メリットについて見ていきましょう。

5-1. 脱炭素電源投資における長期的な参入メリットとバンカビリティ向上

長期脱炭素電源オークションへの参入は、事業者に多様な財務的・戦略的メリットをもたらします。

20年間の固定費回収が担保されるため、事業のダウンサイドリスクが完全に排除されるためです。安定したキャッシュフローが約束されることで、金融機関からのプロジェクトファイナンス調達が格段に容易になります。また、国の厳格な選考を通過したアセットとして、自社の脱炭素ポートフォリオを強化し、ESG評価の向上に大きく貢献できる点も大きなメリットです。

5-2. 第3回以降のオークション制度改正・最低放電時間(6時間化)等の今後の展望

オークション制度は、電力系統の需給変化や技術動向に合わせて順次見直しが進められています。

なお、第3回オークション以降に向けては、系統用蓄電池の最低放電時間要件を従来の「3時間」から「6時間」へ延長する見直しなどが議論されています。また、金利変動リスクを資本コストへ適切に反映させるルール改定など、ガイドラインは定期的に見直しが入る見通しです。最新の制度変更動向を常に把握しておきましょう。

5-3. 系統用蓄電池事業における多重収益化とプロへの相談の第一歩

系統用蓄電池事業は、オークションによる20年間の安定収入と、市場運用による1割のアップサイドの超過利益を組み合わせられる最も有望なビジネスです。

しかし、適した土地選定や複雑な系統接続協議、事前審査に対応した原価算定、高精度なAI充放電制御など、参入には高度な専門ノウハウが必要とされます。自社条件での参入可能性の確認や、土地付き案件の選定、収益シミュレーションを実施する第一歩として、系統用蓄電池総合プラットフォーム「GRID NAVI」などのプロの知見を活用することが良いアプローチとなります。

参照URL: 経済産業省 資源エネルギー庁「長期脱炭素電源オークションガイドライン」 https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/summary/regulations/choukigl_20250827.pdf

「GRID NAVI」
https://gridnavi.jp/

6. まとめ:長期脱炭素電源オークション ガイドラインを理解し系統用蓄電池事業を成功させるポイント

ここまで、長期脱炭素電源オークションガイドラインの概要や要件、応札価格の算定、事業者収入の構造、および系統用蓄電池事業への活用ポイントを見てきました。

長期脱炭素電源オークションガイドラインは、原則20年間の固定費回収を保証し、大規模な脱炭素投資のリスクを大幅に低減させる重要な指針です。事前要件の点検や9割クローバックのルールなどを踏まえた緻密な財務モデルを構築することが成功のポイントとなります。

特に、再エネの出力制御対策として期待される系統用蓄電池事業は、本オークションとの親和性が極めて高く、長期安定収入と市場運用による高収益を両立できる絶好の参入機会です。

自社条件での参入可能性や土地選定、系統接続、収益シミュレーションを進める第一歩として、系統用蓄電池総合プラットフォーム「GRID NAVI( https://gridnavi.jp/ )」の活用をおすすめします。

泉 拓磨
泉 拓磨 本記事の執筆・監修者

合同会社スタートツアーズ 代表社員

太陽光発電・蓄電池をはじめとするエネルギー分野の専門家。NTTスマイルエナジーに約10年間勤務し、営業から新サービスの開発・企画まで幅広く従事。独立後は、メーカー・商社・EPC・地域新電力など、エネルギー関連企業のコンサルティングや人材育成を手がけ、現在は18社の顧問を務める。

自治体の災害時避難所への太陽光発電・産業用蓄電池の導入や、地域新電力における電源開発などの実務経験も持つ。太陽光・蓄電池の設計から事業開発、人材育成まで、エネルギー業界で培った豊富な知見をもとに記事を監修。

太陽光発電・蓄電池をはじめとするエネルギー分野の専門家。NTTスマイルエナジーに約10年間勤務し、営業から新サービスの開発・企画まで幅広く従事。独立後は、メーカー・商社・EPC・地域新電力など、エネルギー関連企業のコンサルティングや人材育成を手がけ、現在は18社の顧問を務める。

自治体の災害時避難所への太陽光発電・産業用蓄電池の導入や、地域新電力における電源開発などの実務経験も持つ。太陽光・蓄電池の設計から事業開発、人材育成まで、エネルギー業界で培った豊富な知見をもとに記事を監修。

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