CCSとはカーボンニュートラルに不可欠な仕組み!その国内外動向
脱炭素社会の実現に向けて、排出削減が困難な産業分野における確実な手段としてCCSへの注目が急速に高まっています。2024年の「CCS事業法」成立を踏まえ、2030年の事業開始や2040年に向けたロードマップが具現化してきました。
一方で、CO2を分離・回収し地下へ貯留する仕組みやCCUSとの相違点、事業化にともなうコストやリスクを正しく把握しきれていないケースも少なくありません 。
そこでこの記事では、CCSの基本概念から国内外の先進事例、法整備の動向や企業への影響まで紹介します。自社の脱炭素ポートフォリオを構築するうえでの判断材料となる情報をまとめていますので、最後までご一読ください。
目次
1. CCSとは?カーボンニュートラルに不可欠な基本概念と仕組み

はじめに、CCSの基本概念や、脱炭素社会においてカーボンニュートラルに不可欠な理由、具体的な仕組みについて紹介します 。
1-1. CO2を分離・回収し地下に封じ込める仕組みとCCUSとの違い
CCS(二酸化炭素CO2の回収・貯留技術)とは、工場や発電所から排出されるCO2を大気に放散する前に分離・回収し、地中深くに長期間安定して貯留する技術です。
CCSは「Carbon dioxide Capture and Storage」の略称で、主に「分離・回収」「輸送」「貯留」の3ステップで成り立っています。
1つ目の分離・回収フェーズでは、化学吸収法やアミン溶液などを用いて排ガスからCO2を効率よく取り出します。
2つ目の輸送フェーズでは、パイプラインや液化CO2船舶を活用し、貯留適地まで運搬します。
3つ目の貯留フェーズで最終的に、地下1,000m以深の帯水層や枯渇油ガス田へ圧入して封じ込めます。
一方、よく似た用語としてCCU(二酸化炭素の回収・利用)やCCUS(二酸化炭素回収・利用・貯留)があります。CCUは回収したCO2を化学品や燃料、素材として再利用するカーボンリサイクルの取り組みです。CCUSは貯留に加え、油田にCO2を圧入して原油の回収率を高める原油増進回収(CO2-EOR)など、有効利用を組み入れた仕組みを指す概念です。
電化や水素化のみでは排出ゼロ実現が難しい排出削減困難セクター(Hard-to-Abateセクター)において、2050年ネットゼロを達成するための重要な方法のひとつとしてCCSへの期待が高まっています。
1-2. 地下1,000m以上の深部地層における長期安定的な貯留メカニズム
CO2の地中貯留は、地下1,000mから3,000mの深部地層が持つ特性を活用することで、長期的な安定性を確保しています。
CO2を地上に漏らさず安全に封じ込めるためには、貯留層と、シール層とも呼ばれる遮へい層の2つの異なる地層が揃った地質構造が必要です。貯留層には砂岩などの隙間が多い多孔質層が選ばれ、その上部を泥岩などの不透水層である遮へい層がフタのように覆うことで漏出を防ぎます。
地下1,000mを超える深部では、高い圧力と温度によりCO2が「超臨界状態」へ変化します。超臨界状態のCO2は気体の拡散性と液体の密度の高さをあわせ持ち、体積が約300分の1にまで大幅に圧縮されます。その結果、限られた地下のすき間へ効率よく大量のCO2を貯留することができるのです。
圧入されたCO2は、時間の経過とともに地層水へ溶解していきます。そのうえ、周辺の岩石と化学反応を起こし鉱物化するプロセスをたどるため、長期的にはより強固に地中へ固定されます。
超長期にわたる安全な貯留が実現するのも、こうした科学的なメカニズムに基づいているためです。
参照URL:
公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)「CCSの仕組み」https://www.rite.or.jp/ccs_qa/ccsshikumi/
野村総合研究所(NRI)「CCS/CCUS(シーシーエス/シーシーユーエス)」https://www.nri.com/jp/knowledge/glossary/ccs_ccus.html
環境省「CCUSに必要な主な技術」https://www.env.go.jp/earth/ccs/ccus-tech.html
2. 脱炭素を加速させるメリットと克服すべき現場の課題

ここでは、CCSがもたらす事業上のメリットと、社会実装に向けて克服すべき現場の課題について紹介します。
2-1. 排出削減困難セクターの脱炭素化を可能にするメリット
CCSは、生産プロセス上どうしてもCO2の発生が避けられない産業において、現実的に大幅な排出削減を実現できるメリットがあります。
鉄鋼、セメント、化学、石油精製といった重厚長大産業では、化石燃料の使用や化学反応にともない大量のCO2が発生します。したがって、こうした重化学工業の領域では、設備の完全な電化や水素還元への移行に大きな時間とコストがかかるため、短期間での脱炭素化が容易ではありません。そこで、CCSを導入することで、既存の産業インフラや火力発電所を有効活用しながら、移行期間中の排出量を劇的に削減できます。
あわせて、欧州連合(EU)の国境炭素調整措置(CBAM)をはじめとする国際的な環境規制の達成率を高められる点も魅力です。サプライチェーン全体で温室効果ガス削減への取り組みを示すことで、グローバル市場での競争力をアピールできます。ESG投資の獲得や企業価値の向上にも直結するため、経営戦略上も力強い手立てのひとつとなるでしょう。
2-2. 高額な事業コストや漏洩リスク・社会受容性における課題
CCSの本格的な普及に向けては、高額な事業コストの抑制や輸送インフラの整備をはじめ、安全性の確保と地域社会の理解をいかに獲得するかが重要な課題となります。
そのなかでも、最大の課題は経済性です。CO2の分離・回収には加熱や加圧のために多大な熱・電力エネルギーを消費します。現状の処理コストは1tあたり約1.2万円〜2万円といわれているため、2050年に向けた大幅なコスト低減施策が不可欠です。
また、輸送網や地理的なギャップも懸念材料です。国内では太平洋側に排出源が集中している一方で、CCSに適した貯留地は日本海側に多い傾向があります。大容量の液化CO2輸送船や長距離パイプライン網など、広域でのバリューチェーン構築が急がれています。
技術面では、地震にともなう影響や地中からのCO2漏洩、パイプライン破損、回収時に使用するアミン系溶媒の環境負荷や有害性などが主な懸念点です。貯留地周辺の地域住民や漁業関係者との丁寧な利害調整をおこない、環境影響評価を徹底して社会受容性を高める取り組みが求められています。
参照URL:リクロマ株式会社「CCS・CCU・CCUSとは?CO2回収貯留利用技術の仕組みを解説」https://rechroma.co.jp/column/netzero/ccus
経済産業省「二酸化炭素の貯留事業に関する法律(CCS事業法)について」https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/carbon_dioxide/pdf/001_03_00.pdf
国際環境NGO FoE Japan「CCSは脱炭素の切り札か?」https://foejapan.org/wpcms/wp-content/uploads/FoE_CCS_brochure_A4_digital.pdf
3. 国内外の主要プロジェクト動向と先進事例の比較

ここでは、国内外で急速に進む主要プロジェクトの動向と、先進的な導入事例について紹介します。
3-1. 米国・欧州・アジアを中心とする国内外の大型CCS推進事例
CCSを巡って、世界各国では法整備や政策支援を背景に、大型CCSプロジェクトの立ち上げと社会実装が加速しています。
米国ではインフレ削減法(IRA)における「45Q税額控除」などの手厚い支援策により、CCSおよびCCUS施設の稼働・計画件数が急速に増加しています。海外の先行事例として、ノルウェーの「スレイプナー」や「スノヴィット」、カナダの石炭火力発電所における「バウンダリー・ダム」、米国の「ペトラノヴァ」などが代表例です。こうした事例では、技術的な検証が進む一方で、操業コストや回収率の維持、地層の安定性確保といった課題も浮き彫りとなりました。
また、アジア太平洋地域においては、日本企業が関与する海外CCS構想が本格化しています。具体的には、国内で排出されたCO2を液化し、マレーシアやインドネシア、大洋州などの枯渇油ガス田や帯水層へ船舶で輸送・貯留する広域プロジェクトです。二国間クレジット制度(JCM)を活用し、国際的な排出削減貢献と権利確保を両立させる取り組みが期待されています。
3-2. 北海道苫小牧などの実証試験からみる日本の取り組み状況
日本では苫小牧での大規模実証試験の成功をベースに、2030年の本格事業化に向けた「先進的CCS事業」が推進されています。
日本のCCS推進において大きな節目となったのが、北海道苫小牧市で実施された日本初の大規模実証試験です。2016年から2019年にかけて港湾エリアの海底下へCO2を圧入し、目標であった累計30万トンの圧入を安全に達成しました。圧入停止後も継続的なモニタリングがおこなわれており、微小振動や地震による漏洩がないことなど、高い安全性がデータで実証されています。
こうした成果を踏まえ、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は2030年までの操業開始を目指す「先進的CCS事業」を選定しました。現在、国内貯留5案件および海外貯留4案件の合計9案件が候補となり、設計作業や適地調査が進められています。首都圏や東新潟、日本海側東北、苫小牧、九州西部沖などにおいて、複数のCO2排出源を集約して効率よく運搬・貯留する「ハブ&クラスター型」のバリューチェーン構築が計画・進行中です。
参照URL: 独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構[JOGMEC]「カーボンニュートラルに不可欠な「CCS」仕組みや国内外の状況など基本を解説!」 https://www.jogmec.go.jp/about/publish/jogmec-news-plus/plus_vol09.html
日本CCS調査株式会社「苫小牧におけるCCUS大規模実証試験」 https://www.japanccs.com/
4. 法整備の進展と2040年に向けた役割・ロードマップ

ここからは、日本国内における法整備の最新動向と、2040年に向けた役割や政府の将来ロードマップについて見ていきましょう。
4-1. 2024年成立の「CCS事業法」がもたらす法整備と許認可制度のインパクト
2024年5月に成立した「CCS事業法」により、事業者の権利確立と安全規制が明確化され、民間参入のための法的基盤が整いました。
これまで日本にはCCS事業を直接管轄する法律がなく、各プロセスにおいて既存の法令を組み合わせながら適用していました。こうした状況を打開するため、2024年5月に「二酸化炭素の貯留事業に関する法律(CCS事業法)」が成立しました。
本法律の最大の特徴は、CO2貯留に適した領域を国が「特定区域」として指定し、公募によって決定した事業者に「試掘権」や「貯留事業権」という排他的な権利を許可する点です。結果として、民間企業は長期間にわたる事業投資の予見性を確保できるようになりました。そのうえ、圧入段階における厳格な保安規制や、操業終了後の長期モニタリング義務が定められています。将来的に貯留層が安定した段階で、JOGMECなどの指定機関へ管理業務や責任を移管できるスキームも盛り込まれました。
4-2. 2030年事業化から2040年に向けた役割と年間貯留量の目標
政府は2030年の事業開始から2040年の事業拡大期を経て、2050年の大規模貯留達成に向けた段階的なロードマップを掲げています。
経済産業省が策定した「CCS長期ロードマップ」では、2030年までに年間600万〜1,200万トンのCO2貯留を可能にし、2050年時点では年間1.2億〜2.4億トンの貯留達成を目指しています。日本の年間総排出量の約10%〜20%に相当する巨大なスケールを目指す目標値です。
ロードマップでは、2030年までを「ビジネスモデル構築期」と位置づけ、国の集中的な支援のもとで先進的CCS事業を立ち上げます。続く2040年に向けては「事業横展開期・自立化期」へ移行し、獲得した知見や技術の水平展開、さらなるコスト低減、貯留地の広域開発を進める方針です。第7次エネルギー基本計画や地球温暖化対策計画においても、CCSは鉄鋼や化学などのHard-to-Abate産業の国際競争力を維持し、エネルギーセクターの脱炭素化を両立させるために不可欠な柱として明確に位置づけられています。
参照URL: 経済産業省「二酸化炭素の貯留事業に関する法律(CCS事業法)について」 https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/carbon_dioxide/pdf/001_03_00.pdf
経済産業省「CCS長期ロードマップ検討会 2023年3月10日 最終とりまとめ」 https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/ccs_choki_roadmap/index.html
5. 脱炭素経営を左右する企業への影響と事業戦略の推進
ここでは、CCSの本格展開がもたらす企業への影響と、現実的な脱炭素事業戦略の進め方について紹介します。
5-1. 排出事業者・エネルギー企業・サプライチェーン全体への企業への影響
CCSの社会実装は、排出事業者における製品競争力の確保から周辺産業の商機拡大にいたるまで、産業界全体に多大な企業への影響を与えます。
鉄鋼や化学、電力などの大排出事業者にとって、CCSは自社の直接排出量であるScope1を劇的に削減する主要な手段となります。初期の回収コスト負担は生じるものの 、低炭素製品としての付加価値を高め、国際的な環境規制下での市場優位性を確保するために不可欠なアプローチと言えます。
同時に、CO2の分離回収アグリゲーターや、液化CO2輸送船・パイプラインの運航事業者、地質調査や掘削技術を持つエンジニアリング企業などには、新たな巨大市場が創出されます。大手取引先からのスコープ別環境情報開示要求が高まるなか、サプライチェーンを構成する中小企業にとっても、脱炭素対応が取引継続の鍵となっている状況です。
5-2. 系統用蓄電池や再エネ事業との組み合わせによる脱炭素戦略
企業の脱炭素化を確実に進めるうえでは、CCSだけに頼らず、系統用蓄電池や再生可能エネルギーを組み合わせた多角的な脱炭素戦略の設計が極めて有効です。
CCSは2030年の本格事業化に向けた大型インフラであり 、社会実装までのタイムラグや高額な設備投資リスクを考慮する必要があります。そのため、太陽光や風力による再エネ自家消費に加え 、系統用蓄電池(BESS)の導入を先行させることをおすすめします。系統用蓄電池は、電気代の削減や非常時のBCP対策だけでなく 、電力市場での取引を通じた即効性のある収益化スキームを確立できる合理的な事業戦略です。
自社の保有資産や土地条件、電力使用パターンを踏まえ、CCSと再エネ・蓄電池をバランス良く組んだ脱炭素ポートフォリオを構築することが、持続可能な経営を実現する道筋と言えます。
参照URL:リクロマ株式会社「CCS・CCU・CCUSとは?CO2回収貯留利用技術の仕組みを解説」
https://rechroma.co.jp/column/netzero/ccus
経済産業省「二酸化炭素の貯留事業に関する法律(CCS事業法)について」https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/carbon_dioxide/pdf/001_03_00.pdf
東京海上日動「CCS、CCUSについて」https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/company/gx/know/detail15.html
6. まとめ:CCSとは持続可能な未来に向けた必須技術であり多角的な戦略検討が不可欠
CCSとは何か、企業の脱炭素戦略を成功に導くための業務フローを見据えながら紹介してきました。
CCSとは、脱炭素社会の実現に向けて排出削減が困難なセクターを支える重要技術です。2024年の「CCS事業法」成立や2040年に向けたロードマップ整備が進む一方、膨大な設備投資や技術的・社会的課題への対応が求められます。
そのため、企業の脱炭素経営においては、CCSだけに頼るのではなく、即効性や収益性の高い系統用蓄電池や再エネ自家消費を組み合わせた多角的なポートフォリオの設計が不可欠と言えます。自社の保有資産や個別の事業条件に応じた最適な進め方を把握するためにも、まずは専門知見を持つ事業パートナーへ相談し、精緻なシミュレーションから検討を開始することが大切です。
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